第115回

医学教育を通して人類学教育の拡張可能性を考える

10月14日(日)13:30-

場所:東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1

2017年3月に改訂された「医学教育モデル・コア・カリキュラム」には、日本の医学教育史上初めて、教育すべき項目として人類学が盛り込まれている。これを受けて、医学教育のなかに人類学を取り入れる動きが加速し、新しい協働の形が生まれてきている。これまでに、医学教育のなかに人類学を取り入れる際には、(1)必ずしも対象を大学生に限定するのではなく卒後教育にも取り組む必要性や、(2)半年かけての講義ではなくより短時間で人類学的な思考のエッセンスとでも呼ぶべきものを提供する必要性、(3)そもそも人類学的な思考や態度がどのような有用性を持つのかを繰り返し提示していく必要性があることが分かってきている。そこで、本研究会では、専門を超えて特徴的な人類学教育を行ってきた3名の医療人類学者を呼び、カンファレンス、フィールドワーク実習、ワークショップといった場において、どのように人類学的な思考を伝えうるのか、そこで見出される人類学的な思考のエッセンスとはどのようなものであるのかについて議論していく。

各発表のタイトル、発表者の氏名・所属、各発表の要旨

倉田誠(東京医科大学)

臨床医学との出会い:医学研究・教育における人類学の展望

2017年の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の改訂において、「臨床実践に行動科学・社会科学の知見を生かす」ために「文化的社会的文脈のなかで人の心と社会の仕組みを理解するための基礎的な知識と考え方及びリベラルアーツを学ぶ」というかたちで医学教育のなかに文化人類学・社会学が取り入れられることになった。現時点では文化人類学教育の全国的導入が始まったばかりであり、主として初年次の一般教育における必修/選択科目化が進んでいるようである。しかし、医学教育における人類学の可能性(あるいは人類学に対する期待)はそこにとどまるものではない。本発表では、主に臨床実習前教育、卒後教育、共同研究などの一般教育以外における人類学者としての関わり方を紹介することで、医学研究・教育における人類学の役割と展望を考えたい。

山崎吾郎(大阪大学)

イノベーションと/の人類学:大学院プログラムにおけるプロジェクトの事例から

イノベーション教育における人類学の位置づけは、たとえば「デザイン思考」の中に典型的にみることができる。そこでは、他者への共感(empathy)が新たな価値創造の第一歩とされ、そのプロセスにおいて人類学的な手法や考え方の重要性が強調されてきた。この発表では、異分野融合型の大学院プログラムで実施している協働プロジェクトを事例として紹介し、ソーシャル・デザインの実践において人類学的なアプローチが果たしうる役割とその可能性を検討する。なお、とりあげるプロジェクトは必ずしも医療分野・医学教育に限定されず、参加する学生の専門は多岐に渡る。近年、人類学の分野でも広義のデザインに対する関心が高まっているが、この発表では、そうした関心が、人類学の他領域への応用にとどまらず、人類学そのものに変化を引き起こす可能性についても議論したい。

飯田淳子(川崎医療福祉大学)

臨床との関連づけに重きをおいた医療者向け人類学教育の試み:「症例検討会」と「臨床実習のエスノグラフィックな歩き方」

2017年3月に改訂された「医学教育モデル・コア・カリキュラム」では、日本の医学教育史上初めて、人類学(および社会学)の内容が導入された。諸外国では、社会科学を卒前医学教育カリキュラムにとり入れるにあたっての困難を乗り越えるため、心理社会的側面に関心が向けられやすい臨床実習と結びつけた教育の重要性が指摘され、現場の臨床医と社会科学者の連携が課題とされている。それをふまえ、本発表では、何人かの医療者および人類学者とともに開発し、評価を行いながら改善を重ねてきた医療者向け人類学教育の手法を2つ紹介する。1つは人類学者と医療者との共同の「症例検討会」であり、もう1つは臨床実習前あるいは臨床実習中の学生にエスノグラフィックな視点を教える「臨床実習のエスノグラフィックな歩き方」である。これらの具体的な教育実践の省察を通じ、人類学的な思考の臨床と関連づけた伝え方と、そこで見出される人類学的な思考のエッセンスについて考える。

コメンテーター

浮ケ谷幸代(相模女子大学)

渡邊日日(東京大学)

タイムスケジュール

13:30-13:45 趣旨説明(浜田明範(関西大学))

13:45-14:25 倉田発表

14:25-15:05 山崎発表

15:05-15:20 休憩

15:20-16:00 飯田発表

16:00-16:15 浮ケ谷コメント

16:15-16:30 渡邊コメント

16:30-16:45 休憩

16:45-17:15 全体討論

※その後、会場付近にて懇親会を予定しております。