第55回

【日時】2008年7月26日

特集:「セクシュアリティ」

直線という迷路:「性同一性障害者」による「性転換」に関する一考察

市野澤潤平(東京大学大学院文化人類学研究室博士課程、神田外語大学および女子美術大学短期大学部非常勤講師)

【発表要旨】

本発表では、日本において「性同一性障害者」と呼ばれる人々について考える(注)。いわゆるトランスセクシュアル/トランスジェンダーといわれる人たちのセクシュアリティや経験は、単純にひとくくりにはできないが、本発表では、「性転換」を行う「性同一性障害者」たちの経験を、ある程度抽象化・一般化したレベルで描くことを試みる。トランスセクシュアル/トランスジェンダーについての考察は、当事者によるものも含めて数多く行われているが、本発表では特に、人間一般にとっての性別やセクシュアリティを理解する試みへと展開していく可能性のある議論ができればと考えている。

(注)本発表で「性同一性障害者」とカギ括弧をつけているのは、病院で診断書をもらい、公的にそうであると認められた人たち(もしくはそうなろうとしている人たち)に、考察の対象をさしあたり限定するためである。また、調査の制約上、主に念頭に置くのは、いわゆるFtM、女性から男性への「性転換」を行う人々とする。また本発表では「性転換」という言葉にもカギ括弧をつけているが、その理由には発表内で触れていく。

「おんなのこ」が「おきゃくさん」を見るとき――ある性風俗店における考察」

熊田陽子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士後期課程)

【発表要旨】

性労働の研究においては、論者の性労働に対する主張は、客をどう呼ぶかという問題に反映されてきたように思われる。例えば、性労働を否定する立場から行われた研究では、客は、「買春男性」あるいは単に「男」などと表現されることもあった。それに対して、性労働の職業としての正当性を主張するセックス・ワーク論では、客は大切な「お客様」なのだという反論がなされた。しかし、発表者が調査を行うある性風俗店に在籍する女性性労働者たち(「おんなのこ」たち)は、このどれでもない、「おきゃくさん」という表現を用いる。本発表では、この「おきゃくさん」ということばを出発点に、「おんなのこ」たちにとって「おきゃくさん」とは一体何であるか、という問題について考えていきたい。具体的には、「おきゃくさん」と会った時、「おんなのこ」が彼らの何に注目し、それをどう評価し、彼らとの関係を構築していくのかについて検討する。