第58回

【日時】2009年2月21日

特集:「ジェンダー/男性性」

【発表要旨】

従来、伝統的なメキシコの男らしさは、(1)米墨摩擦を背景とした米国への対抗意識(2)カトリックの異性愛主義に由来する同性愛嫌悪、などに基づいて構築されると言われてきた。

ところで、近年メキシコの男らしさの在り方は大きく変化したと言われる。その変化の一因には、米国福音派の布教があると指摘されてきた。カトリックから米国福音派に改宗した男性は、 一夫一婦制を徹底するようになり、飲酒喫煙を完全にやめる。米国福音派の布教がメキシコのジェンダーやセクシャリティ観念に及ぼす影響は、そうした図式で説明されてきた。

本発表の目的は、この図式を再検討することにある。本発表では、米国発の、同性愛を積極的に肯定する教会を取り上げる。伝統的な男らしさから排除されてきたメキシコのゲイは、同教会 で自らのジェンダーや性をどう位置づけ直すのか。彼らの場合、メキシコの伝統的な男らしさの構築に影響を与えてきた米国への対抗意識はどう現れるのか。それらを報告することを通して、 米国からの布教がメキシコのジェンダー・セクシャリティ観念に及ぼす影響について考え直してみたい。

米国からの布教の影響で動くメキシコのジェンダー / セクシャリティ?: メキシコ北東部モンテレー市にあるメトロポリタン・コミュニティ・チャーチ支教会を事例に

上村淳志(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)

能動/受動モデルに基づく男性性の再考:ブラジル国バイーア州ヘコンカヴォ地域における罵りの言葉と振る舞いを事例に

高橋慶介(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)

【発表要旨】

ブラジルの男性性は能動/受動モデルに沿って能動性を重視するものとして捉えられてきた。バイーア州ヘコンカヴォ地域の男性間における罵りの相互行為はそれ自体が罵り相手に対する能 動的行為であるだけでなく、罵りで頻繁に使用される「男に犯される男」や「浮気された男」といった言葉も相手の男性に受動性を付与することで相手の男性性を貶める表現である。一方、相 手の挑発的な罵りに取り合わないといった一種の受動性が能動性よりも重視される場面もある。また、罵りに対する過剰な反応は「自己」に対する積極的な働きかけを欠いているという点で、 もはや能動性とみなされない。この能動性と受動性の複雑な結びつきを罵りと嘲笑の事例を通じて示すことで、分析枠組みとしての能動/受動モデルの限界を確認する。最後に、男性間のこの 能動/受動モデルに収まらない男性のあり方を通じて、男女間の相互行為における男性性の捉え方の展望を見てゆく。