第59回
2009年5月24日
特集:「サンゴ礁の生物資源利用」
「資源としての特殊海産物:「漂海民」モーケンによるサンゴ礁資源利用の生態史」
鈴木佑記(上智大学大学院外国語学研究科地域研究専攻博士課程)
【発表要旨】
海に関する人類学的研究は、漁撈技術や漁法に着目した研究の時代 (1970年代)から、漁撈民の知識と技術を扱う研究の時代(1980年代後半以降) へと向かい、現在(1990年代後半以降)では海洋資源の管理と利用について盛ん に論じられるようになっている。このことは、地球上における資源の減少やその 所有に関する問題が各地で発生しており、人類が解決すべき焦眉の課題の一つと なっていることと無関係ではない。本発表で扱う特殊海産物(自家消費を目的と しない、主に中国市場を最終目的地とした資源)も例外ではない。特殊海産物の 一つであるナマコに関しては、エクアドル政府がガラパゴス諸島の環境保護を目 的として、2003年にナマコをワシントン条約の附属書3に掲載した。現在、米国 の提案により、同条約の附属書2に記載することが検討されはじめている。本発 表の対象であるアンダマン海域においても、特殊海産物に関わってきた主体の変 化について歴史的に調べてみると、近年では国家や超国家的連合組織の存在感が 増しており、近い将来に国際的な枠組みのもと管理される可能性が高い。本発表 では、アンダマン海域で暮らしてきたモーケンを事例として、彼らと特殊海産物 との関係を比較的長いスパン(約200年)で考察を加えることで、サンゴ礁資源 利用の変化を部分的に明らかにすることを試みる。
「ダイビング観光と生態リスク管理:タイ南部アンダマン海におけるダイビング・ガイドの視点から」
市野澤潤平(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)
【発表要旨】
「生態リスク」管理とは、野生生物の種の絶滅(もしくは個体数の激減)への予 防的な努力です。漁業(漁撈)、すなわち「獲る」という人間と海棲生物との伝 統的な関係のあり方は、生態リスク管理の考え方のもとに統制されつつあります。 一方、20世紀後半になって、「見る」という新たな人間と海洋生物への関わり方、 すなわちレクリエーショナル・ダイビングが盛んになってきました。本発表が報 告するのは、タイ南部アンダマン海におけるダイビング観光が、生態リスクの考 え方とは全く異なる文脈・論理において実践されているという点です。このこと は、(外部的な権力による活動そのものの禁止以外の)現場レベルにおける生態 リスク管理の困難さを示唆します。 本発表は、観光ダイビング・ガイドの仕事がいかなるものであるのかの、ある一 面からの説明を通じて、彼らの海への関わり方と生態リスク管理の考え方との乖 離を描き出します。発表者の研究は未だに不十分で、まとまった考察や結論を提 示するには至っていないため、みなさまからの率直なご批判・ご指導をいただけ れば幸いです。
コメンテーター:寺戸宏嗣(東京大学大学院総合文化研究科文化人類学研究室博士課程)