第105回

現代人類学研究会<バリ島から考える人類学的観光研究>

開催概要

【日時】2015年4月25日(土曜日)15時~18時

【場所】東京大学駒場キャンパス14号館407教室

(地図:http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html

*エントランスカードをお持ちでない方は、テニスコート側の外階段より4階までお越しください。

【登壇者】

  • 岩原紘伊(早稲田大学アジア太平洋研究センター 助手)

      • 「選択されるツーリズム:バリ島南部KP村の事例から」

  • 吉田ゆか子(日本学術振興会 特別研究員PD(国立民族学博物館))

      • 「バロン・ダンスの仮面からみるバリ文化観光:芸能の「資源化」をめぐって」

  • 門田岳久(立教大学観光学部 准教授)

      • コメンテーター

【タイムスケジュール】

    • 15:00~15:05 主旨説明

    • 15:05~15:45 発表者①

    • 15:50~16:30 発表者②

    • 16:30~16:40 休憩

    • 16:40~16:55 コメント

    • 16:55~18:00 ディスカッション

発表概要

岩原紘伊「選択されるツーリズム:バリ島南部KP村の事例から」

本発表では、バリ島バドゥン県 KP 村 における慣習村組織を通じた村落ツーリズムの導入 という現象に注目し、今日都市化が進む村に生きる人びとがどのように自らの生活世界を構築しようとしているのか、またそのための手段としてツーリズムがなぜ選択されたのかを明らかにする。本発表で取りあげるKP 村は、人口 約 11,000 人、18 の慣習集落を持つ比較的規模の大きい慣習村である。2008 年末、KP村において、村落ツーリズムとそれに関わる活動のマネジメントを行うためのグループが設立された。村落ツーリズムとは、端的にいえば村落における生活実践を観光資源とするツーリズム形態である。

KP 村で、村落ツーリズムの導入が目指されるようになった理由は、主に二点ある。一つ目は、生活実践の変化が村落共同体の維持に対する「危機」として捉えるようになっていること。二つ目は、エンパワメントの手段としてツーリズムが意識されていることである。そうした認識においては、ツーリズムはあくまでも手段であり、喫緊にツアー客を集めるべく推進されるべき対象ではない。本発表では、KP村の村落ツーリズム推進グループが立ち上げたゴミ問題対策と農業儀礼復興プログラムに焦点を当て、村落社会の動態性と、あるツーリズムの形態を選択し導入する能動性とがいかに連関しているかを考察したい。

吉田ゆか子「バロン・ダンスの仮面からみるバリ文化観光:芸能の「資源化」をめぐって」

本発表は、バリ島芸能の観光資源化の過程を、観光客向けのショーに用いられる仮面と人々の関わりに着目し考察する。バロン・ダンスは、ご神体の仮面が登場する儀礼劇を、観光用に改編・創作したものである。エキゾチックな楽園を求める西洋人の眼差しに呼応し、自文化を加工して提供してきたバリ人の「したたかな」姿はしばしば先行研究で指摘されてきた。観光ショーには御神体ではなく代理品の仮面が用いられる。ここにも、人々が仮面を使い分け、巧みに儀礼と世俗の観光用上演を切り分ける姿をみてとれるかのようだ。しかし実際には、観光ショー用の仮面が、ご神体の力添えを得ていたり、次第に霊力を獲得して寺で祀られたりするケースがある。人々は仮面を畏怖し、それに時に翻弄される。観光ショー用の仮面と人々の間で織りなされる出来事に目をむけ、人間中心的な視点が見落としてしまう芸能の資源化の過程の諸相を明らかにする。