第63回

特集:「移民と適応」

2009年11月21日

「エスニック・ビジネス」再考:台湾におけるタイ料理店を事例として(仮)」

市野澤潤平(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

【発表要旨】

タイから台湾への出稼ぎ労働が盛んなことを背景に、主に在留タイ人を対象としたタイ料理店は、以前から複数存在していた。そして近年になって、台湾人の食への嗜好の多様化により、いわゆるエスニック・フード市場が勃興してきているなか、タイ料理店のビジネスが、タイ人マーケットから台湾人マーケットへと拡大してきている。 外国からの移入者が自国料理店を展開するというのは、いわゆる「エスニック・ビジネス」としておなじみの現象である。台湾のタイ料理店に関しても、台北市外にある在住タイ人向けのタイ料理店は、一般的な「エスニック・ビジネス」の定義通りに、タイ人によって経営されている。ところが、台北市内において台湾人を対象にしたタイ料理ビジネスは、むしろタイ人を経営から排除するような形で拡大してきているようである。本発表では、この事実に注目し、状況説明を試みる。

本発表は、同様の事態が起こらなかった東京におけるタイ料理ビジネスのケースと比較しつつ、台湾における現在のタイ料理ビジネス/市場の特殊性を明らかにする。また、例えばタイ人がタイの民族的特徴を売りにするという、従来の「エスニック・ビジネス」論が当たり前としてきた前提が、ある特定の条件において成り立たなくなることを、指摘する。

「アメリカにおけるモン族の婚姻戦略の変化(仮)」

吉井千周(都城工業高等専門学校専任講師)

【発表要旨】

1970年代からタイを経由してアメリカに流出したラオスのモン族は、最初の移民から30年近い年月を経て現在アメリカ合衆国にてカリフォルニア州、ミネソタを中心にアメリカ最大のアジア系アメリカンコミュニティを形成するに至った。そうした巨大化したアメリカモンコミュニティでは豚や鳥の解体を伴う宗教儀式だけでなく、重婚、誘拐婚(KidnappingMarriage)、低年齢での婚姻、といったモン族の伝統的婚姻にも変更が求められるようになった。

本報告では2009年夏に報告者が行った調査をもとに、アメリカモン族における旧来の伝統的婚姻が変容していった様について紹介し、同様に伝統的婚姻の変更を求められているタイモン族との相違点を中心とした考察を加えたい。