第54回

【日時】2008年6月22日

特集:「都市における先住民コミュニティ」

「アボリジニであること(being Aboriginal)」と「アボリジニとして行動すること(doing some Aboriginal things)」:シドニー南西部のオーストラリア先住民におけるコミュニティ意識とアイデンティティ

山内由理子(多摩大学非常勤講師)

【発表要旨】

本発表は、従来のコミュニティ研究の理論を批判的に検討し、都市人類学、殊にネットワーク理論を参考としながら、都市郊外における「コミュニティ意識」を把握するモデルを提示する。それと同時に、そのモデルとアイデンティティに関するディスコースとの関係を検証する。題材となるのは、シドニー南西部の郊外に住むオーストラリア先住民の事例である。

オーストラリア先住民の70%以上は、ヨーロッパ人の入植が進んだオーストラリア南東部と南西部に住む 。低収入所得層向けの住宅が比較的多いシドニー南西部郊外は、統計上オーストラリア第二の先住民居住地域である 。シドニー南西部においては、主に1960年代の公共住宅の建築プロジェクト以後、先住民の居住が始まった。この地域の特徴は、政策により先住民が一箇所に集住できず、また、その出身地域がsettled Australia全体に散らばっているため、他地域のように血縁に基づくネットワークが作れないことである。つまり、従来アボリジニが自らを組織化する際の基盤が存在しないということになる。しかし、先住民たちは自らをアボリジニ「コミュニティ」の一員であると語ることが少なくない。それでは、彼らの「コミュニティ意識」は何を基盤とし、何によって支えられているのか。さらにまた、この地域においては、他のアボリジニに対する「アボリジニではない」という非難がしばしば聞かれる。

この両者に共通するのは都市郊外という人間関係が比較的希薄な社会的状況と独特の曖昧さであるが、それではこの両者はどう関連しているのか。ここでは、「アボリジニであること(being Aboriginal)」と「アボリジニとして行動すること(doing some Aboriginal things)」という二つの概念を軸として分析を加えていきたい。

コメンテーター1:工藤正子(東京大学助教)

コメンテーター2:前田建一郎(一橋大学博士課程)