第81回

2011年12月3日(土)

特集:多文化社会ハワイと民族/ローカル意識

[ 発表要旨 ]

18世紀のクック到来以降に始まる牧地開発・農地開発で土地を失った先住ハワイ人の多くが、やがて市街地周辺にスラムを形成し生活するようになる。1921年に登場したハワイ人専用住宅(ハワイアンホームステッド)は、住む場所を追われたこれら先住ハワイ人に、職住の場所を提供することを目的として現在に至るまで整備・開発が行われている。

ハワイアンホームステッドに入居するためには、法律により50%以上の先住ハワイ人の血統を有していることが定められている。自身の血統を証明し、新たに入居することができれば、格安の値段で土地を借りることができるなど、様々な優遇制度が適用されるハワイアンホームステッドは、先住ハワイ人にとって生活基盤を安定させることができる手段であると言えるだろう。

本発表では、多民族化がより進んだ現代ハワイ社会において、ハワイアンホームステッドの入居資格である50%の血統の規定が、現在いかにしてホームステッド住民の先住ハワイ人としての意識形成に作用しうるのか、事例を基に考察を試みたい。

先住ハワイ人とは何か――現在のハワイアンホームステッドをめぐる「血統主義」を事例に

四條真也(首都大学東京大学院 社会人類学教室)

He’s just not a local guy――インタビューで構築されるハワイの「ローカル」

吉田裕美(早稲田大学大学院 人間科学研究科)

[ 発表要旨 ]

本研究の目的は、ハワイで頻繁に使用される「ローカル」という社会的カテゴリーが、多様な民族背景を持つハワイ語学習者とのインタビューの中で、どのように定義されるのか明らかにすることである。「ローカル」という概念の形成は、プランテーションで共に働いたハワイ先住民とアジア系を中心とした移民たちが、支配層の白人に対抗し、連帯感を抱いたことに始まる。現代のハワイにおいては「ローカル」=「ハワイに生まれ育った人々」として民族的背景の異なる人々を包括的に捉える概念として使用されることが多い。しかしながら、1980年代以降、ハワイ愛国者達を中心に「ローカル」の包括性が民族間の政治的・経済的格差を隠蔽すると批判されるようになった。

「ローカル」研究には、様々なアプローチが可能であるが、本研究においてはインタビュー参加者のインタラクションを通じて、「ローカル」がどのように位置づけられているのかについて言語分析を行なった。特に、社会言語学的観点から「ローカル」のアイデンティティ・マーカーとして捉えられるハワイ・クレオール語(通称Pidgin)、及びハワイ英語、“標準”アメリカ英語への語りに着目した。また、「ローカル」とその他の社会的カテゴリーである「ハワイアン」や「ハオレ(白人)」との関係性についても考察する。

コメンテーター:黒崎岳大さん (国際機関 太平洋諸島センター)