第57回
【日時】2008年11月29日
特集:「移民労働者」
【発表要旨】
在日フィリピン人の多くは他のニューカマーとは違い、日本人と家族関係を結ぶことにより定 住化した。そのため、日本人に囲まれて暮らしており、同国人同士の集住地域を持たない。 しかし、人々は日本人、フィリピン人双方と社会関係を形成している。カトリック教会などに拠 点を置くフィリピン人組織や、インフォーマルな集まりを通じて、別々に暮らしているフィ リピン人同士がつながっている。それだけではない。人々はフィリピンに住む親族とのつながり を発展させ、国境を越えた関係を構築している。
本報告では、在日フィリピン人たちが様々な関係を操り、構築している日比に跨る社会関係を 解明する方法論、人類学者とインフォーマントの関係の様相を、これまでの人類学及び社会 学における社会関係への分析、人類学者とインフォーマントの位置についての議論を踏まえて再 検討したい。さらに、移民への人類学的調査の応用学的利用の問題点と可能性についても、 報告者自身が模索中の方法論から議論したい。
集住地域をもたない在日移民・フィリピン人への人類学的調査と人類学者の位置への一考察
永田貴聖(日本学術振興会特別研究員PD・京都大学社会学研究室)
「在日来日」「韓国朝鮮人」「ホステス」概念を脱構築するための試論:クラブ「ローズ」とクラブ富士における参与観察を中心に
鄭幸子(チョン・ヘンジャ)(東京大学大学院総合文化研究科日本学術振興会外国人特別研究員・ハミルトンカレッジ文化人類学部助教授)
【発表要旨】
19世紀から始まる日本の植民地統治を契機に、日本で増加し始めた「朝鮮人労働者」は、現 代の日本における移民労働者の先駆けの一つといえるだろう。現在「コリアン」としてくくられ る労働者は、いわゆる「ニューカマー」と呼ばれる来日間もない「来日韓国人」から、日本で代 々生活してきた5世を含む「在日朝鮮人」まで、その実態は実に多様である。本発表では、 2 000年から2001年に 鄭幸子(チョン・ヘンジャ)が、大阪の韓国クラブ「ローズ」、およ び名古屋にある(日本)クラブ富士で行った調査から得られたデータを元に、『在日来日』『韓 国朝鮮人』『ホステス』の実態の多様性を具体的なデータを元に論じる。 また鄭幸子(チョン・ ヘンジャ)はホステスとしての「参与観察」 の経験を元に、方法論としての「労働参与観察」( “interlocutor”の行う労働に参加しながら学ぶ実践)という概念の理論化も提案したい。