第11回
【日時】2003年1月25日
南園秀人 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)
【発表要旨】
80年代以降の人類学で注目されてきた実践理論は、再生産の諸側面を具体的に捉える研究として現在展開されている。そのような研究の中でも、90年代に提出された正統的周辺参加論は、再生産を微視的に考察する時の枠組みとして強い影響力を持つ。しかし、再生産とは伝達される知識が変化する過程でもあるという実情を踏まえると、正統的周辺参加論の枠組みでは不十分であることが見えてくる。本発表は知識が同じように伝達されている時、それは当然なのではなく、問われなくてはならないというスペルベルの指摘を踏まえ、正統的周辺参加論では軽視されていた教授的介入が知識の品質保持に役割を果たしていることを指摘する。そこから、教授的介入の役割を考慮した視座が提出される。この視座の有益性を、メキシコの機織りにおける知識伝達を微視的に再分析することから明らかにし、議論全体として正統的周辺参加論の再生産観に再考を促す。
コメンテーター:居郷至伸(東京大学大学院比較教育社会学修士課程)
技能の品質保持から見る再生産
中国の戯曲教育における身体技法習得の現在:西安市の秦腔戯曲学校の事例から
清水拓野 (東京大学大学院文化人類学研究室博士課程)
【発表要旨】
現在では、中国の伝統劇、取り分け秦腔の役者養成は、戯曲学校と呼ばれる芸能の専門学校に大きく依存するようになったが、戯曲教育におけるこの学校依存という現実にも関わらず、そこでの日常的な教育実践の実態が外部に知られることは稀である。本発表では、これまで研究対象化されることの極めて少なかったこの教育実践を、西安市の秦腔戯曲学校(仮名)の事例に則して、役者の演技に関する身体技法の習得過程という視角から検討する。さらに、秦腔の習得過程の特徴というこの個別問題(日常的な実践レベル)の検討から出発して、芸能の習得過程に関するこれまでの人類学的・民俗学的研究において扱いが比較的手薄であった、学校的文脈における芸能の習得過程の特徴というより普遍的な問題(身体技法の習得過程の組織的制約)を考察する。
コメンテーター:猪瀬浩平(東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)