第24回

【日時】2004年4月24日

修士論文構想中間発表会(2)

現代上座部仏教社会の『聖人』 ―タイの森林僧をめぐる諸現象の理解に向けて

藏本龍介 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)

【発表要旨】

本論文は、「聖人」という切り口から、タイの森林僧をめぐる諸現象への理解を深めることを目的とする。

タイの森林僧、マン師の一派は、世俗との関わりを断って厳格な頭陀行を実践することによって、上座部仏教の理想である「アラハン」に到達したと信じられている。1970年代以降、都市の新興中間層を中心に、このような森林僧の「力」に対する崇拝現象が顕著になった。護符や遺物の人気、莫大な金品を献じる布施行、巡礼ツアーなどである。

この崇拝現象に関しては従来、仏教システムに不変的に見られる現象、近代化の影響、70年代以降の急激な社会変動の影響、といった議論がなされてきた。しかしいずれもこの現象に関して「何が、どのように、なぜ」を十全に答えられていない。 本論文では比較宗教学的視点から、宗教的価値の体現者をめぐって引き起こされる社会現象を「聖人現象」として理念レベルで整理し、これを索出手段としてこの現象の説明を試みる。

東アジアにおける『人神』崇拝の考察

鈴木洋平 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)

【発表要旨】

漢族の宗教的世界観を説明する概念として提示された「神明(god)」「鬼魂 (ghost)」「祖先(ancestor)」という三つのカテゴリーによる、いわゆる「三位 モデル」は、カテゴリー間の変位性を指摘されつつも有効な概念として認識されてい る。ところが日中・日韓をはじめとする東アジアにおける、こうした概念の比較研究においては、それぞれの要素ごとの断片的な比較は行われてきたものの、「三位モデル」のような宗教的世界観までを視野に含めた検討は少ない。本論文では、過去の東アジアにおける「神明」「鬼魂」「祖先」などに関する先行研究の検討から、各要素間を統合する形での宗教的世界観比較のための視座を提示するとともに、「三位モデル」が提示する各概念を該当地域におけるフォーク・タームにまで引き戻すことにより、地域間の差異をより明確にしたモデル設定について考察する。

マレーシアにおけるインドネシア系移民―女性家事労働者を中心に

猿渡真帆 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)

【発表要旨】

本論文ではマレーシアにおけるインドネシア系移民を例にして国際労働力移住とジェンダーという視点よりインドネシア系移民が何故どのように移住するのか考察する。国境を越えた人の移動は、現在新国際分業(NIDL)の段階を迎えている。経済的グローバリゼーションに焦点をあてて整理すれば、3つの局面、つまり第1が「女性労働の原蓄」第2が「生産のグローバル化への女性の動員」第3が「再生産領域における労働のグローバル化への女性の動員」*となる。移民女性労働者の現状を見ていくと、再生産領域における労働のグローバル化は第3局面「移民の女性化」の中に現れる。例えば先進国において女性が労働市場へ入っていく時、従来女性が担当していた家事労働を担う層として、発展途上国の女性移民が流入してきている。こうした再生産領域における労働への女性の動員は、マレーシアでは隣国インドネシアとの間にトランスナショナルな形で拡がっている。そして移民をもたらす要因には、マレーシアが先進国入りを成し遂げるため移民女性家事労働者の導入を政策的に推し進めてきている背景がある。 マレーシアにおけるインドネシア系移民を扱う中でもここでは特に家事労働部門に焦点をあて、再生産領域のトランスナショナリゼーションと、家事労働の外部化が孕む問題を取り上げる。