第65回

特集「身体のハイブリッド」

2010年1月23日

「治療から数の調整へ―バイオエコノミーの人類学」

山崎 吾郎(日本学術振興会特別研究員、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター)

【発表要旨】

本発表では、臓器移植医療が、患者の治療行為から経済的な数の調整へとその関心を変えていくときに、身体や生命に関していかなる認識の変化が生まれるのかを考える。こうした変化は、「臓器不足」が世界的に問題視されるなかで、提供数を増やす政策が患者を治す医療実践と一体になって正当化されることから生じている。つまり現在では、治療行為それ自体が新たな経済活動の促進と結びつき、両者が表裏一体をなしていることになる。生命と資源の交錯は、人間とモノの関係を微妙にずらしながら、新たな資本を生産していく。こうした経済の仕組みを、ここでは生経済(bioeconomy)という観点からとらえ、人類学的な研究課題として提示してみたい。

「Fatをめぐる身体のハイブリッド」

碇 陽子(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

【発表要旨】

保健医療により定義される「過体重」と「肥満」者が人口の6割を超えたアメリカでは、近年、肥満の予防改善が重要な社会的政策的課題となっている。本発表では、太っていることをめぐる「身体のハイブリッド」について考えてみる。例えば、太っていることは様々な病気のリスクがあるとされ、技術・制度によって医学的に「肥満」的身体として構成されること。痩身のために胃に外科的手術を施すこと。歩行が不自由なために、車椅子を使って移動をサポートすること。身体が大きいために飛行機の座席が2座席分必要であること。いずれの場合も、身体・自己の境界は、科学・技術やモノとの係わり合いにおいて、不分明なものとして捉えられる。本発表では、報告者のサンフランシスコ・ベイエリア地区でのファット・アクセプタンス運動(肥満受容運動)の調査をベースに、身体・自己の境界の不分明さが問題として表出する場面を事例にしながら、「身体のハイブリッド」という本研究会のテーマについて考察してみたい。