第32回

【日時】2005年4月10日

【発表要旨】

本発表の目的は、薬剤の氾濫状況における薬剤と生物医療の関係を明らかにする事にある。ここでいう薬剤とは、生物医学理論に基づいて開発・製造された抗生物質や鎮痛剤、解熱剤等のモノの事である。1970年代より、主にアジア・アフリカ・ラテンアメリカの各地から「薬剤の氾濫」と呼べる状況の存在が報告されてきた。薬剤の氾濫とは、薬剤市場に対する国家の統制が弱く、生物医療のトレーニングを受けていない者でも薬剤市場に容易に参入できる状態の事である。

薬剤の氾濫状況について集中的に研究してきた薬剤の人類学は、薬剤の氾濫を生物医療の拡大や資本主義経済の浸透と結び付けて理解してきた。本発表では、薬剤の氾濫に対する生物医療や資本主義経済の影響を認めながらも、薬剤の交換と使用に関わるアクターの意図や利害、及び個々のアクターによる薬剤の読み換えに注目する事によって、薬剤の氾濫状況における薬剤と生物医療の関係を再考していく。

浜田明範 (一橋大学大学院社会科学研究科博士課程)

薬剤と生物医療の奇妙な関係-薬剤の人類学序説

『文化とパーソナリティ』再考―関係性を用いた新しい子ども人類学のための試論

西田季里 (東京大学大学院総合文化研究科文化人類学博士課程)

【発表要旨】

現代日本の抱える問題の一つに、子どもの問題が挙げられる。いじめ、不登校、非行、DVといった子どもの問題行動だけでなく、「子どもを愛せない」と悩む親、虐待を繰り返す親の問題も深刻化している。こうした子どもに関わる諸問題に対し、人類学は何を言いうるだろうか。

子どもを扱った人類学的研究は、「文化とパーソナリティ」から始まり、いくつかの変化を経て、現在は心理人類学の中で行われている。本論文は、初の人類学的子ども研究といえる「文化とパーソナリティ」から、現在の人類学における子ども研究への変遷を3つの視点から辿り、「文化とパーソナリティ」の現代的意味を再考する。

3つの視点とは、(1)心理学と人類学との関わり (2)応用人類学として (3)子どもの人類学的研究として、という視点である。その上で、現在の人類学的子ども研究の限界を超える、新たな視点を提案することを目指す。

コメンテーター:森田敦郎 (東京大学大学院総合文化研究科文化人類学博士課程)