第101回

投稿日: Nov 26, 2014 8:50:1 AM

特集「医療人類学とバイオエシックス」

【日時・場所】

【日時】2014年12月6日(土曜日)17:00開始~20:00終了予定

(終了後、懇親会も予定しております。奮ってご参加ください)

【場所】東京大学駒場キャンパス14号館407教室

http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html

*エントランスカードをお持ちでない方は、テニスコート側の外階段より4階までお越しください。

【登壇者】

岩佐光広(高知大学人文学部国際社会コミュニケーション学科専任講師)

「バイオエシックスを「脱思考(unthink)」する:ラオス低地農村部における看取りの事例を手掛かりに」

柘植あづみ(明治学院大学社会学部社会学科教授)

「先端的生殖医療推進の論理ーー語られないことをいかに記述するか」

武井秀夫(千葉大学文学部名誉教授):コメンテーター

【企画要旨】

医療人類学のバイオエシックス(生命倫理学)に対する関心は乏しい。医療と生命科学をめぐる倫理的問題に取り組む学問・実践領域であるバイオエシックスは、ある状況における意思決定や行為が「どうであるべきか(what ought to be)」に関心を向ける規範倫理学(normative ethics)的な傾向が強い。それに対していえば、医療人類学はある状況における意思決定や行為が具体的に「どうであるのか(what is)」に関心を向ける記述倫理学(descriptive ethics)的な傾向が強い。ホフマスターが言うように、こうした関心の違いゆえに、医療人類学がバイオエシックスに関心を持たないのも驚くべきことではないのかもしれない(B. Hoffmaster, 2001, Bioethics in Social Context, Temple University Press)。

しかしながらバイオエシックスの影響力は無視できないほどに拡大し強まっている。1960年代にアメリカを中心として成立したこの領域は、現在では世界的に拡大し、各国の医療の臨床実践、制度、教育に組み込まれるようになっている。その議論の対象は、「代替補完医療」をめぐる議論を通じて、いわゆる「伝統医療」にも及んでいる。UNESCOの「バイオエシックスと人権に関する世界宣言」のようなグローバルな倫理的問題に取り組むための動きも活発化している。そうしたなかで、ネオリベラリズムの拡大と相まって、自己決定(権)とインフォームド・コンセントを重視するバイオエシックスの理念はグローバルな「イデオ・スケープ」を形成しつつある。さらには、「文化的バイオエシックス」の名のもとで、医療人類学(の一部)はバイオエシックスの一領域として組み込まれてさえいるのである(岩佐光広2010「バイオエシックスの「第4期」としての文化的アプローチ:人類学的視点からの一考察」『千葉大学人文社会科学研究』(21):27−41)。

医療をめぐる諸現象を調査研究するとき、もはやバイオエシックスは無視できない存在となっている。むしろバイオエシックスを射程に収めなければ、医療現象を適切に理解することすらできないといっても過言ではない。だとすれば医療人類学も、これまで見過ごしてきたバイオエシックスとの関係をきちんと考えなければならない。そこでは、医療人類学がバイオエシックスと関わることの重要性とともに、その難しさや「徒労感」についても考えてみる必要がある。そもそも医療人類学がバイオエシックスと関わる必要があるのかどうかという根本的な問いについても考えてみる必要もあるだろう。この企画は、バイオエシックスと関わりながら調査研究を行ってきた医療人類学者の報告をもとに、医療人類学とバイオエシックスの関係について考え、議論するための機会となることを期待している。この試みは、きっと医療人類学という領域そのものを改めて見つめなおす重要な機会ともなるだろう。(岩佐光広)