第68回

【日時】2010年3月27日

特集:「人類学者のエステティクス」

具体の「遺伝学」―グレゴリー・ベイトソンのポートレートの試みとして

梅田夕奈(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

【発表要旨】

本発表は、文化人類学者グレゴリー・ベイトソン(1904-1980)の軌跡を、彼の遺伝学および動物学との関わりに注目して描くことを目的とする。ベイトソンは、領域横断的な研究者であり、その民族誌やダブルバインド概念などは、文化人類学分野においても輝かしい業績として残されているが、他領域での業績と理解されるものも多い。彼がオーソドックスな人類学研究に従事していた時期は長くはない。彼にとって人類学は一時期のものに過ぎなかったようにも見える。だが、彼の研究は独自の仕方で、つねに人類学だったのではないか。そこで本発表では、レヴィ=ストロースを補助線に、社会科学分野を越えたベイトソンの全体業績を視野に入れたうえで、それを改めて文化人類学の文脈に位置づけることを試みる。

そのために、まず、グレゴリー・ベイトソンの軌跡を規定したものを、遺伝学者であった父ウィリアム・ベイトソンに遡って探り、この父に、19世紀から20世紀へと生物学が転換していくなかで失われた可能性の断片が見出されることを指摘する。それは、人間は自然をどのように知りうるのかという問題を自然科学研究をしながら考えるという方向性である。そして、父ウィリアムの失敗を跡づけるなかでこのような方向性を明確化していったベイトソンの「人類学」は、レヴィ=ストロースを補助線として見たときに、レヴィ=ストロースと同じく、現代にあって具体の科学の全体性を回復させ、人間と動物との関係を語るものだったと主張する。

構造主義への抵抗ーミシェル・レリスの憑依論の射程ー

堤裕策(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

【発表要旨】

発表では、「ゴンダルのエチオピア人における憑依とその演劇的諸相」(1958年)でレリスが憑依分析において展開している演劇的形象をテーマにします。とりわけ、その問題をレヴィ=ストロースとレリスにおける論争を手がかりに、フランス民族学の呪術論の展開を念頭において、その射程を検討したいと思っています。「呪術師とその呪術」、「象徴効果」で呪術師を精神病者と関連付け、精神病理的観点から呪術師を位置づけたレヴィ=ストロースに対して、そのような観点をレリスは批判し、先の憑依論を書いています。抗した経緯をふまえ、この両者の間の違いを、経験的観察において問題となる主体と客体の二項対立をどのように扱うのかと言う問題と捉え、この観点からレリスの演劇的形象による憑依分析のもつ射程をを検討するつもりです。おそらく、レヴィー=ストロースは、主体と客体の関係を二元論的に扱い、それをのりこえるために、構造主義にいたる構造概念を支える「無意識的なもの」を見出し、のちの構造概念の展開していく。一方、レリスは憑依論において演劇的形象によってその問題をどのように扱っているのか。観察経験の問題をどうしようとしたのか。西欧の演劇論にも参照しながら、議論したいと思います。

コメンテーター:松岡秀明(淑徳大学人間環境学科教授)

コメンテーター:佐々木剛二(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

コメンテーター:里見龍樹(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)