第52回

2007年12月2日(日)

特集:コミュニケーション

コミュニケーションはいかに成立しうるか?:ケニア寄宿制プライマリ聾学校の生徒による『ごっこ遊び』の分析から『多言語主義』への挑戦

古川優貴(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程(社会人類学)

[ 発表要旨 ]

本報告では、これまで報告者が何度か口頭発表や映像作品の中において言及してきた、ケニアの寄宿制プライマリ聾学校の生徒による「ごっこ遊び」(「即興寸劇的コミュニケーション」)を、これまでとは異なる視点で、つまり日常的なコミュニケーションの延長線上にあるものとして捉え、そこで何が進行しているかを分析・検討する。

これまでは、この「ごっこ遊び」がそれに参与する子どもたちの経験をどのように形作るかという議論を行ってきたが、今回は、何かを形作るものとしてこの「ごっこ遊び」を意味づけるのではなく、「ごっこ遊び」の最中に何がどのように進行していたのかということを具体的に分析する。

この分析を通じて、行為の結果を観察・分析すると何らかの規則(文法、構造)に依拠することによって成立しているかのように見えるコミュニケーションが、一回性(即興性)に富んでいることによってこそ「成立している」―というよりも「流れてゆく」―ことを提示したい。

本報告では更に、人々の日常的なコミュニケーションという営みが、何らかの言語体系を共有することによって初めて成立するというよりもむしろ、一回一回のコミュニケーションの場に共在し互いに「同調する」ことに拠って「成立」していることを示す。このことは、言語間に境界線を引き、数えられる複数のものとして言語を捉える「多言語主義」的な認識の仕方への問題提起にもなるだろう。

現在の日本における女性言葉:女性管理職のコミュニケーション方法から見えてくる高い社会的地位にいる日本人女性の新しい現状

クロードエヴ・デュビュック(東京大学大学院総合文化研究科文化人類学研究室博士課程)

[ 発表要旨 ]

女性言葉は、一般的に「弱い」、「柔らかい」等と言われている話し方で、日本では、女性言葉に対する社会的意識や価値が特に高いと言われています。一方、現在の日本では社会に出て、会社等で活躍している女性の数が増えています。そのため、社会的地位の高い女性は、伝統的な女性言葉と、地位にふさわしい威厳のある話し方との間で、葛藤することになります。例えば、前にはなかった、上司が女性で部下が男性という関係では、以前男女の間で使われていた言語的戦略を使えなくなりますが、言葉使いには社会的な価値が残っているため、言語的な葛藤が現れ、この新しい現状にあった新たな言語的戦略を生み出さなければなりません。発表者は現在、伝統的に社会的地位の低い日本人女性が現在の日本で権力のある地位にいるとどのような言語的な葛藤と出会うのか、その葛藤にどう答えるのか、を分析することで現在日本人女性に対する知識を深めることを目指しています。

本発表では、まず、男女の言葉遣い・会話の戦略の違いに関して行われてきた研究を紹介し、日本における女性言葉・男性言葉の特徴を紹介したいと思います。その後、女性管理職を対象にした本研究のフィールドワーク・調査方法・データを紹介し、最後に、分析から見え始めた傾向を紹介したいと思います。

コメンテーター1:渡邊日日(東京大学大学院総合文化研究科講師)

コメンテーター2:今関光雄(成城大学成城大学民俗学研究所共同研究員)

司会:桑島薫(東京大学大学院総合文化研究科文化人類学研究室博士課程)