第103回

投稿日: Jan 06, 2015 7:41:56 AM

現代人類学研究会<特集:再分配>

開催概要

【日時】2015年1月24日(土曜日)15時~19時

【場所】東京大学駒場キャンパス14号館407教室

(今後変更の場合があります。変更の際は、こちらのウェブページ及びMLにてお知らせします)

(地図:http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html

*エントランスカードをお持ちでない方は、テニスコート側の外階段より4階までお越しください。

【登壇者】

    • 浜田 明範(国立民族学博物館機関研究員)

      • 「趣旨説明:再分配研究の射程について」

    • 友松 夕香(東京大学農学生命科学研究科)

      • 「『労働』の意味:ガーナ北部・ダゴンバ地域の農業生産における性別分業と分配」

    • 高橋 絵里香(千葉大学准教授)

      • 「誰がボタンを押すのか―フィンランドの高齢者福祉にみる要求/提供のダイナミクス―」

    • 森 政稔(東京大学教授)コメンテーター

【タイムスケジュール】

15:00-15:30 「趣旨説明:再分配研究の射程について」(浜田)

15:30-16-20 「「労働」の意味:ガーナ北部・ダゴンバ地域の農業生産における性別分業と分配」(友松)

16:20-17:10 「誰がボタンを押すのか―フィンランドの高齢者福祉にみる要求/提供のダイナミクス―」(高橋)

17:10-17:30 休憩

17:30-18:00 コメント(森)

18:30-19:00 フロアーからの質疑

発表概要

全体概要

互酬や市場交換とともに、経済活動の一類型としてポランニーによって定式化された再分配は、マリノフスキーによる古典的な研究に代表されるように、人類学の黎明期から重要な主題のひとつであった。しかし、贈与や市場に関する研究が大輪の華を咲かせる一方で、再分配についての研究は1970年代以降ほとんど進展のないまま留まっているように見える。もちろんこのことは、人類学者が再分配的な実践に遭遇しなくなったことを意味するわけではない。あるいは、「社会的なもの」や格差をめぐる脱領域的な議論の活性化を鑑みても、人類学の立場から再分配について議論すべきことは数多くあるように思える。

人類学が再分配論に貢献できることとして、具体的な行為への注目と複数の再分配的な実践への注目の二つを挙げることができる。人類学者は、世界各地の様々な地域における様々な規模の再分配的な実践を取り上げてきた。そこで集められ、配られるのは、必ずしも貨幣だけではなく、コメやイモなどの農作物や建築や防衛のための労働もまた、やり取りの対象となってきた。同時に、再分配は必ずしも格差を是正するものではなく、王権や身分制を支えるものでもありえた。このような多様な再分配的な実践を念頭に置くならば、それぞれの再分配的な実践がどのような性格の集団をどのように立ち上げるのかを知るためには、再分配が行われる際の具体的なやり取り(何がどのようにどこに集められ、何がどのようなタイミングで誰に分配されるのか)に注目する必要がある。他方で、再分配の規模の多様性に留意するならば、個々人が参与する再分配は必ずしもひとつではなく、むしろ、複数の再分配的な実践に同時に参与することが常態であるようにも思える。そうであるならば、複数の再分配的な実践間の関係や、それぞれの再分配実践に付随する集団の間の関係についても問い直す必要が出てくるだろう。本特集では、これらの問題意識に基づいて、人類学において改めて再分配について研究する意義と可能性を探りたい。

友松夕香

開発援助政策において、アフリカの農村部の女性たちは経済支援を受ける対象としての中心的地位を確立している。1980年代以降、家計・農村経済研究を率いてきたフェミニスト人類学・経済学は、農業に不可欠な土地や労働という生産資源の配分の男女差を女性の経済的不利益と結びつけ、開発政策における女性支援論を形成してきた。男性が土地を有し、耕作の主体になるのに対し、土地配分が限られた妻をはじめとする女性は男性へ無償、または安い代償で労働提供をしているという見解である。近年、女性支援論者たちも、土地配分と性別分業の形態をジェンダー力学から捉える単純な見方に修正を加えつつあるが、それは家で消費する作物への女性の労働提供については差し引いて考えるべきだという論調にとどまっている。

本報告では、ガーナ北部の西ダゴンバ地域における調査をもとに、西アフリカ・サバンナ地域で広く見られる、農業生産におけるジェンダー化された労働と支払い関係を取り上げる。先行研究では、男性の畑で家の内外の女性が収穫労働を担い、作業の出来高から作物を分けてもらっていることが報告されている。妻をはじめとする家族の女性さえも労働を介して直接的に分配を受けるのはなぜなのか。また、男性たちが家族関係に限らず、女性たちの労働提供を受け入れ、分配をするのはなぜなのか。そしてこの「支払い」はどのくらいの経済規模に値するのか。本報告では、この地域の家計の特徴を踏まえつつ、女性が男性の畑で投入する「労働」の意味について考察することで、土地や労働など生産資源の配分の男女の差を問題化してきたこれまでの学説に替わる見方を提示したいと考えている。

高橋絵里香

多くの先進国において、社会福祉のサービスを提供するための人的・経済的資源が不足している。望む人が全員施設に入居するだけのキャパシティがないのは日本だけの問題ではない。例えば、社会民主主義型の福祉レジームで知られる北欧諸国においても、施設を閉鎖して在宅介護に焦点を移す変革が進められており、またケアワーカーの恒常的確保という問題にも直面している。

社会福祉は、本来的には社会的・経済的不公正を再分配によって是正するための仕組である。しかし、再分配対象の同定作業は、脱施設化・ケアワークの効率化といった90年代以降に継続的に進められ、特に2010年頃から急速化する地域福祉の構造改革によって、複雑なものとなっている。なぜなら、減り続ける牌を個々の高齢者のニーズに合わせて分配していくことは、困難なプロセスであるからだ。

そこで本発表は、フィンランドにおける高齢者長期滞在型施設への入居者の割り当てプロセスと、「安心電話」と呼ばれる緊急通報システムの夜間利用を題材とし、サービスの利用がどのような原則に基づいて決定されているのかを描写していく。そこから、どのような性格の不公平な条件が、サービスによって是正されているのかを問うていく。以上のような分析を通じて、自己決定という北欧社会において重視されてきた価値が、近年の構造改革に通底する新自由主義的価値観とどのように統合・反発するのかを考えていきたい。