第102回

投稿日: Dec 10, 2014 8:11:6 AM

開催概要

【日時・場所】

2014年12月20日(土曜日)15:00開始~18:00終了予定

(終了後、1時間程度の名刺交換会・懇親会も予定しております。奮ってご参加ください)

東京大学駒場キャンパス14号館407教室

http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html

*エントランスカードをお持ちでない方は、テニスコート側の外階段より4階までお越しください。

【登壇者】

  • 桑島 薫(東京大学大学院総合文化研究科学術研究員)

    • 「生活史からとらえる日本の単身女性の暮らしと社会経済変化:「単身女性世帯調査」を手掛かりに」

  • ゴロウィナ・クセーニヤ(東京大学大学院総合文化研究科学術研究員)

    • 「『働かない』移住者を生む社会の考察:日本とカナダにおけるロシア人移住者の労働状況を巡って」

  • コメンテーター:工藤 正子(京都女子大学現代社会学部准教授)

発表要旨

桑島 薫

少子高齢化の進む現代の日本社会では単身世帯の増加が顕著である。平成 22年国勢調査では、「一人世帯」数は1678万世帯で、一般世帯の3割を超える(平成22年国勢調査 人口等基本集計結果要約)。なかでも、一人暮らし高齢者の増加と一人暮らし高齢女性の増加が注目される。このような社会背景の下、単身女性世帯をめぐる生活状況および政策・制度面での問題を探るべく、2008~2010年にかけて社会学を中心に複数の専門分野の研究者6名によってジェンダー的観点に立つ共同研究(平成20~22年度科研費補助金プロジェクト)が実施され、発表者もその一人として参加した。今回の発表では、その調査データを基に人類学的関心に沿って報告し、今後の研究の方向性を検討したい。

本発表の基となるそもそもの共同研究の目的は、法律婚家族を標準として構築されている日本の社会政策、ならびに家族、労働、地域生活などに関わる社会制度や社会的慣習が女性たちの生活に与える影響と、そのジェンダー的側面を詳らかにすることにあった。

調査対象は、近い将来退職を迎える、あるいは現在、退職後の生活をしている50代以降の単身女性(非婚かつ一人世帯)に限定した。単身女性の生活を支える基盤として、1) キャリア形成、2) 資産形成、3) ネットワーク形成、の3点の分析軸を設け、これまでの生活・暮らしについて東京都および地方都市に住む17名に聞き取りをし、そのプロセスと直面した困難や問題点を把握した。同研究は面接調査で一旦終了し、詳細な分析は各研究者に委ねられることとなっており、発表者は今回の発表を人類学的研究テーマへとつなぐ基礎段階として位置づけている。

生活史に着目したアプローチの背景には、日本の単身女性世帯に関して、高齢者研究(河合 2009)や住宅や居住形態といった社会地理学的研究(若林 2002)のほか、単身女性の生活や暮らし方に影響を与える親の資産や配偶関係、出身地などの社会学的分析(平山 2009; 若林 2002)はあるものの、高齢者問題や住宅問題、女性問題と区分することなく、単身女性の歩んできた人生において彼女達の生活状況を捉える必要性があった。本発表ではさらに、「シングル」を自発的選択と捉え、「結婚しない」生き方についての認識や有り様について明らかにした研究(ゴードン 2001)や、「シングル」の相対化や社会的意味の議論を行った文化人類学の研究成果(椎野編 2014)などを参考に、異なる世代の単身女性の生活が形成されてきたプロセスに注目する。

17名という小規模のサンプルではあるものの、調査からは単身女性のなかに見られる経済的格差や差異が浮き彫りとなった。各々の人生において、時代の社会経済的状況が仕事の選択や働き方に影響を与え、翻ってそれらは退職後の経済状況や社会保障面に直接関わってくる。また、単身女性の住宅や税控除に関する政策面での不満や困難が指摘される一方で、従来、女性役割とされてきた子どもや高齢者のケアを担うことで、保育や介護をめぐる制度の不備を補完していた単身女性も少なくなかった。

単身女性をめぐる人類学的研究の今後の方向性を探る一助とすべく、本発表では生活史を手掛かりに、戦後から現在に至るまでの日本の社会経済変化といかに関わりながら単身女性の生活が形成されてきたのかを提示すると同時に、単身女性の生活・生き方・人生―life―を親族や地域といった共同性、相互性において捉えることが必要なのではないかという点を指摘する。

ゴロヴィナ、クセーニャ

本発表は、「働き者」としての移住者、とりわけ女性移住者という概念を批判的に見直すことを出発点としている。移住者はメディアや先行研究[Lacovetta 1992, Zontini 2010]において、ホスト社会における賃金労働への参加の点で「働き者」として描かれることが圧倒的に多い。しかし、日本における、日本人男性と結婚しているロシア人女性移住者に関する発表者の調査では、彼女達は、日本での賃金労働への関与と、さらなるキャリア志向と採用につながる日常的な努力において積極性を欠いていることが浮き彫りとなった。インフォーマント(50名)の94%は大学教育を受けているが、調査の時点で日本でのフルタイムの仕事に就いていたのは10%のみであった。また、教育や言語スキルが高ければ高いほど、日本での採用が実現しやすい、あるいはその願望が高い、といったことは確認されていない。それと同時に、多くの移住者がアパシーの状態を経験していることがわかった。さらに、日本での採用がうまくいった者の中では、一定の期間働いた後にフリーランスや自営業等への移行という行動が確認された。

このような状態は、日本社会および日本社会において妻・母親であることと相互関係にあるとの想定に基づき、その原因を探るため、発表者は比較的アプローチを採用した。日本以外の国々におけるロシア人女性移住者の労働状況をテーマとして、1980年代以降に移住を果たしたカナダのロシア人移住者に焦点を当てた。Gingras [2010]とSyskova [2013]などの研究、更に発表者自身が行った参与観察(2012-13)と実行中のパイロットスタディ(アンケート調査)の結果によると、カナダでのロシア人女性移住者は、様々な特徴や傾向が見出されるものの、6カ所の職場での勤務経験がある対象者の例にも見られるように、日本でのロシア人女性移住者とは異なり、全体的に賃金労働に関する積極性を見せている。

本発表では、具体的な事例を挙げながら、ロシア人女性移住者は、現地のロシア人コミュニティの有り様を含めて、カナダ社会におけるどのような要因により勤務志向を確保でき、いかにその実現に至るのか、またそれに対し、日本社会のどのような要因により勤務志向を感じずあるいは保てずにおり、実際の職が得られないのかを検討する。さらに、移住者の将来の労働参与との関連においては、移住先の日本やカナダのけん引の社会経済的な要因に着目し、それぞれの国に惹きつけられる移住者の特徴についても推察する。