第96回

投稿日: Oct 24, 2013 2:36:20 AM

【日時】2013年11月9日(土) 15:00開始

【場所】東京大学駒場キャンパス14号館407号室

< http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html >

*エントランスカードをお持ちでない方は、テニスコート側の外階段より4階までお越しください。

「災害文化を創り出す―スマトラ沖地震後のコミュニティ防災の試みと課題」

西田 昌之 (PhD, 国際基督教大学 アジア文化研究所 研究員/平和研究所 助手)

インド洋沿岸地域に大きな津波を引き起こし、甚大な人的、物的被害を与えたスマトラ沖地震から9年が経とうとしている。本発表ではその津波で被災した地域コミュニティに注目し、津波以降に防災を地域コミュニティの生活習慣、様式に組み込んでゆく手法として災害文化の創造と定着を掲げる動きをボランティアやコミュニティの活動と語りから分析する。

【発表要旨】

タイ国パンガー県バーンナムケム村は津波による大被害から見事に復興を遂げ、ボランティアによる防災活動をコミュニティに定着させたコミュニティ防災の村として注目を集めるようになっている。特にバーナムケム民間災害ボランティア団は、その防災活動に関して政府から表彰を受け、タイを代表する防災モデルとしてさまざまな地域での講演や防災活動を開始している。まさにバーンナムケム村は、タイで最も被害の大きかった津波被災地から、防災支援の拠点に姿を変えることになったのである。

バーンナムケム村の災害文化とは、津波をシンボルとして掲げ、津波からの復興記憶と経験の継承とその経験の再生産を中心にコミュニティの結束させる重要な概念体系である。バーンナムケム村は津波記念公園や野外博物館などのインフラを村内に新設し、さらに津波追悼行事などをもともとあった地域の年間行事やタンブンなどといった伝統慣習概念の中に組み込みことで日常の生活の中で定着化を図っていった。さらにタイ政府の防災統治体制との相互協力関係を作りつつも、個々人の津波で失った親族への悔恨、コミュニティへの貢献などの思いを汲み取りながら、村内外での救援ボランティア活動を継続している。災害救援との関わりを続けることによって、コミュニティにあたらしい災害の記憶と防災の重要性を植え付ける動機として循環としている。しかし一方でバーンナムケム村の防災文化は形成の途上にある。津波のリスクを恐れて村外への移住する住民、新住民として流入するビルマ人労働者をどのように災害文化の中に組み込んで行くのか模索している途中である。

バーンナムケム村の人々にとって、津波は多くの家族親類の命と財産を奪った元凶であった。しかし9年が経ち、津波は奇妙にも共同体の復興の中で住民コミュニティの統合の象徴に変化している。そして今や津波防災を通じてコミュニティの外部に対しても開けた新しい公共性をもつ災害文化コミュニティが生まれつつあるのである。(本発表は科研費・研究活動スタート支援「タイ南部の大規模災害後のコミュニティ自立再生と癒しの過程に関する研究(代表者:西田昌之、研究課題番号:24820040、2012年度-2013年度)」の助成による研究を基にしている。)

コメンテーター:高藤洋子(立教大学アジア地域研究所 特任研究員)