第44回
インド特集
2006年12月16日
『トライブ』の社会空間―インド特殊論を超えて
小西公大 (東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程)
本発表では、インド・ラージャスターン州西部に広がるタール沙漠周辺に散住する「トライブ」の、他のコミュニティとの関係性の広がりを紹介し、彼らの行う社会的な実践を考察してゆく。従来のインド村落社会研究においては、「カースト」を基盤とする静態的な共同体論が主流を成し、比較的閉じた村落のあり方が描かれてきた。また、インドにおける従来の「トライブ」研究は、彼らの異質性を強調すると共に、彼らが次第にヒンドゥー化されるという進化論的な研究がなされてきた。こうした従来の研究の偏向性を指摘しつつ、本発表では「トライブ」の現地社会におけるあり方を明らかにする。そして、彼らを中心とした社会関係の広がりの見取り図を作成し、その収縮自在な社会空間のスケールを描き出す。
ヒンドゥーイズムに抗して/とともに生きて ―北インドにおける仏教改宗運動と『改宗仏教徒』の生活実践―
舟橋健太 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程)
本発表では、北インドのウッタル・プラデーシュ州西部における仏教改宗運動と、村落調査に基づいた「改宗仏教徒」の生活実践について紹介し、特にヒンドゥーイズムとの関連から、そうしたかれらの実践について考察を行なう。従来、「改宗仏教徒」に関する先行研究においては、ヒンドゥーイズムとの断絶・対抗という側面ばかりが強調される傾向にあった。そこで本発表においては、「改宗」を結果や出来事ではなく「過程」ととらえ、「連続性」を鍵概念に、かれら「改宗仏教徒」たちの具体的な生活実践をとりあげて、分析・考察を行なう。すなわち、ヒンドゥーイズムとの関連からみられるのは、(1)新たな仏教的生活実践、(2)ヒンドゥー的儀礼の選択的実践、(3)両要素の混淆的実践、といった、異なった種の実践である。また、時間軸における「連続性」という観点から、自らの過去・現在・未来をみつめる/語る際の「仏教徒」としての自己意識についても考察を行なう。
【全体のコメンテーター】
名和克郎 (東京大学東洋文化研究所助教授)