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第97回

2014/01/28 4:39 に 院生会2 が投稿   [ 2015/08/05 0:17 に 院生会1 さんが更新しました ]
【天候不順のため日程再調整中】2月8日開催の現代人類学研究会につきましては、天候不順のため、現在日程を再調整中です。


【日時】2014年2月8日(土)13:00開始
【場所】東京大学駒場キャンパス14号館407教室
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html >
*エントランスカードをお持ちでない方は、テニスコート側の外階段より4階までお越しください。

<「組織化」特集>


組織(organization)に関わる関心は、伝統的な社会組織からアソシエーション、そして人間と非人間のネットワークに至るまで、人類学のなかで、名称や注目点を変化させながらずっと持続してきた。そこでは、大まかに言えば、静態から動態へ、求心から遠心へ、閉鎖系から開放系へ、機能から情動へ、などの議論の志向の変化を見出すことができよう。つまり、組織というものの範疇ををより広げていきつつ、そのなかでいかに多様な存在がつながって共存している(いく)のか、ということに価値が置かれてきたのである。それに対して近年、現代哲学のある一部の動きとも共鳴しながら、切断や断絶、質的な差異に価値を置いたり、それを維持し続けることに対する志向性が現れ、また次第に大きくなりつつあるように見える。以上のような状況を背景にして、本研究会は今後の展開に向けたひとつの契機として、異なるフィールドにおける、組織化の臨界点についてのエスノグラフィック記述を突き合せ、そこから何が見えるのかを考えてみたい。

【登壇者とタイムテーブル】
■木村周平(筑波大) 1:30~2:10
「組織化されたものとしての景観とその複数性:津波被災後のある集落を事例として」

■ベル裕紀(東京大) 2:10~2:50
「韓国における移住労働者の組織化:社会の創出に向かうのか?」

■猪瀬浩平(明治学院大)3:00~3:40
「直線、切断、接合、螺旋:ある知的障害をもつ人の旅をめぐる<組織化のようなもの>をめぐって」

■コメンテーター:久保明教(東京外大)

コメントと質疑応答 3:50~5:00

「組織化されたものとしての景観とその複数性:津波被災後のある集落を事例として」

木村周平(筑波大学)

見ることは、見る側が、見られる側にある雑多な諸要素の集合から特定の諸要素を取り上げて結びつける行為である。これは、いわば地に対して図を、ノイズのなかからシグナルを浮かび上がらせる動的なプロセスだが、そこではこの選択と連合は見る側の能力の問題としても、対象となる諸要素の側の問題としても捉えうる。本発表は科学論を背景としたこうした着想から、組織化というテーマについて考察したい。具体的に取り上げるのは、津波のおよそ2年後に、岩手県沿岸部に設置されたある津波記念碑である。本発表では、そのデザインから設置に至るプロセスのなかで、記念碑がどのように/どのような景観の一部となっていったかについて記述する。それを通じて、一つのモノとしての記念碑の形成が、地域内外における多様なものを結び付けると同時に、分断していることを明らかにする。これに基づき、発表者は、組織化がつねに不完全なものにとどまること、だからこそプロセスとしての創造的な組織化が持続していく可能性があることを主張する。


「韓国における移住労働者の組織化:連結点としての移住活動家の役割」

ベル裕紀(東京大学)

韓国において、移住労働者の問題は、1990年代半ばから2000年代中盤まで盛り上がった、移住労働者の在留権の要求を含む「人権・労働権」を求める運動に端を発する。その後、移住労働者を支援する多くの団体が設立され、労組は「移住労働者の組織化」を推進し、教会を中心とする各市民団体が国籍別の「移住民共同体」の設立支援を行ってきた。

移住労働者支援団体は、教育、労働相談、そして旅行や祭りなどの行事を通じて、移住労働者の組織化を試みてきたが、この時、一部の移住労働者(以下「移住民活動家」)が、韓国人活動家と移住労働者との連結点になってきた。移住労働者にとっては、韓国人活動家との繋がりは、一方で労働相談などの韓国で合法的に滞在する上で欠かせない資源や、祭りへの参加や教育の機会を提供するものであるが、他方で移住労働者団体の自律性を侵害する。

本発表では、移住労働者の法的な地位と労働環境、それが規定する日常、そして移住労働者のバックグラウンドなどを概観した上で、移住労働者の組織化を特に移住民活動家の視点に立ち、韓国人活動家との距離の取り方に注目しながら報告する。韓国人活動家にとって、移住労働者の組織化とは、十分に教育を受けていないと想定されている移住労働者を教育によって、移住労働者自身が声を発し、韓国社会を変えていく政治的な主体に育て上げることである。しかし、移住労働者は、実際には平均以上の教育を受けている場合がほとんどであり、母国の政治状況や社会状況に関する関心や責任感は弱くない。また一般的な想定とは対照的に、韓国でお金を貯めることだけを考えている者はむしろ少なく、帰国後のために個人的なキャリア・ビルディングも模索している。

そうした背景から、移住民活動家にとっては、組織化とは、一言で言って互助組織の設立であり、これは一方で労災被害者や母国での災害、孤児院への募金集めをするためのクラスターを構成することであり、他方でシェルターや教育の機会、あるいは不完全であれキャリアになりそうなものの提供を行う場所としても機能する。

韓国人活動家の行う組織化と移住民活動家の行う組織化は、その対象となる移住労働者に対する認識も、その目的も異なるが、相互補完的なものであり、移住民活動家は、支援を行う韓国人活動家とのハブとして、互助組織に資源を提供するとともに、韓国人活動家による動員から互助団体を守る楯にもなる。


直線、切断、接合、螺旋:ある知的障害をもつ人の旅をめぐる<組織化のようなもの>をめぐって

猪瀬浩平(明治学院大学)

障害をめぐる議論は、社会モデルのように障害の構築性を指摘し、障害を生み出す社会の変革をめざす運動に理論的後ろ盾となってきた。本発表はその運動の意義を評価しつつ、(知的)障害を持つとされる人の様々な行為が、運動には容易く回収されない形で周りの人々を巻き込み、あるいは周りの人や事物に巻き込まれながら、即時的に生み出し、即時的に解体する中で起こる多元的な<組織化のようなもの>を記述しようと試みる――ここにおいて、人類学「的」記述が行う<組織化のようなもの>と、その失敗も俎上にあがる。その上で、社会モデルが云うのとは別の形で、世界が変わってしまう可能性が、実は今この瞬間にも偏在していることを指摘する。同時に知的障害のある人の<主体>性を、社会モデルの延長線にない形で考える。