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第90回

2013/01/14 6:58 に 院生会2 が投稿   [ 2014/03/06 23:51 に 院生会1 さんが更新しました ]
(終了しました。)
【日時】2月2日(土)13:00~17:00
【場所】東京大学駒場キャンパス14号館4階407(http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html)
    ※研究会終了後同じ場所で懇親会を予定しております。

<特集 医療人類学>慢性疾患における「不確実性」の人類学的な議論に向けて



■碇陽子(金沢星稜大学) 
「身体と外部の「境界」と「不確実性」:慢性疾患における「不確実性」の人類学的な議論に向けて」

■磯野真穂(早稲田大学) 
「診察現場の不確実な身体―循環器疾患のフィールドワークを通じて」

■牛山美穂(早稲田大学) 
「アトピー性皮膚炎の台頭と不確実性の増大―1980年代以降の日本の事例から」

【要旨】
 本研究会全体の目的は、アトピー性皮膚炎や循環器疾患など、現代社会で問題化される「病気」に着目し、「不確実性」という近年注目されつつある問題系の中で、人々の認識や実践のあり方を人類学的に考察することを目的とする。そこで、本発表では個々の事例に入るための準備段階として、「不確実性」をめぐる議論について、いくつかの方向から研究整理を試みたい。その際に注目したい点として、現代社会で問題化される「病気」が、疾病構造の「感染症」から「慢性疾患」への転換を背景にして、特定病因論から説明できず、それらを引き起こす原因や過程が「見えない」という特徴を持つという点である。

 「見えなさ」は、病因としての「異物」が明確ではないことに起因する。生活習慣や遺伝など、ライフスタイルや時間経過のなかで生じる各種作用が病因として取り込まれることによって、「病気」は、単純に外部環境からの身体への境界侵犯として理解することが困難になりつつある。すなわち、「異物」によって侵犯された身体の「境界」は、身体/外部環境、内部/外部といった分類体系を脅かすような静的な「境界線」イメージとして把握することが困難になりつつあるのだ。そのため、人々の生活実感や身体感覚において「見えにくく」、それが故に大きな不確実性を伴うものとなる。個々の発表で明らかにされるように、たとえエビデンスに基づく診断・治療のガイドラインが科学的客観的に策定された疾患であっても、身体感覚の察知により不確実性の増大をもたらしたり(磯野)、病因や治療法が明らかにされていない疾患にたいし、それをコントロールしたいという希求が逆に不確実性の増大をもたらす(牛山)。

 文化人類学では、身体とその外部の「境界」について、多様な社会文化的な身体観のあり方について示唆を与えきた。特に象徴人類学の境界についての議論では、分類秩序からの逸脱は境界領域にあるものとされ、その逸脱の背景には分類体系が存在すると説明されてきた。しかし、現代社会で問題化される一部の「病気」の理解においては、上記で述べたように、身体の「境界」とそれを犯す「異物」という理解が困難になり、それ故に患者の「病気」の経験は大きな「不確実性」を伴うものとなりつつある。本発表では、新たな「病気」のあり方に伴って登場してきた「不確実性」のあり方を人類学的文脈に位置付け、その上で、不確実性という観点から、身体と外部の「境界」という古典的な人類学的テーマを捉えていく方向を模索したい。