研究会の記録‎ > ‎2011年度‎ > ‎

第77回

 2011年5月21日(土) 

「カストム」における生成
-ソロモン諸島マライタ島北部の海上居住民ラウ/アシにおける社会・文化的動態とアイデンティティ

里見龍樹 (東京大学総合文化研究科)

[ 発表要旨 ]
 慣習・伝統文化を意味するピジン語表現である「カストム」は、主として(脱)植民地化の過程で生じた、オセアニア、とくにメラネシア島嶼部の人々による自文化の対象化の動きを表す概念として、1980~90年代を中心に盛んに論じられた。「カストム」あるいは「伝統文化の客体化」をめぐる議論の流れは、その後ある種の理論的な限界に突き当たってしまったようにも見えるが、今日なお、オセアニア各地において「カストム」の観念が重要なものであり続けていることは変わらない。本報告では、80~90年代におけるカストム論の端緒となったフィールドのひとつであるソロモン諸島マライタ島からの事例に基づき、近年の人類学における理論的展開をも参照しつつ、「カストム」を論じる仕方の現代的なアップデートの可能性を探る。
 マライタ島北部に住む「ラウ」または「海の民」(アシ)と呼ばれる人々は、活発な漁撈・交易民であるとともに、サンゴ礁に岩を積み上げて人工の島を造る独自の海上居住を営むことでも知られてきた。他方、今日のマライタ島北部には、この「海の民」(アシ)というアイデンティティが、この人々自身によって潜在的ながら根本的に疑問に付されているという状況が認められる。本報告では、こうしたアイデンティティのゆらぎを、人工島と呼ばれる独自の海上居住形態と「カストム」の観念の両義的な結び付きという背景の下で考察する。ラウ/アシの事例を通じて、「カストム」が含意する社会・文化的動態を従来とは異なる仕方で考えるための示唆を得ることが、本報告のねらいである。