研究会の記録‎ > ‎2010年度‎ > ‎

第76回

【日時】2011年2月19日(土)

<特集>

 「現代社会の村落政治-アクター・モラル・デモクラシー」

ラオスにおけるフェアトレード生産協同組合と村落の政治~仲買人のふるまいを事例に

 箕曲 在弘(早稲田大学大学院博士課程)

【発表要旨】
 近年、市場経済化のもとで小規模零細農民が被る経済的不利益に対して、持続可能な生産が可能になるように農民を支援する、フェアトレードと呼ばれる市民運 動が行われている。それは、特にコーヒーやカカオなどの一次産品の生産者に対して、技術支援や取引価格の公正化を目的として行われている。とくに収入への 影響に注目が集まるフェアトレードにかんする議論ではあるが、一方でフェアトレードを実施する協同組合と対象社会との関係については、あまり注目されてい ない。そこで本報告では、ラオス人民民主共和国南部のボラベン高原における、コーヒー栽培に従事する農民を対象としたフェアトレード生産協同組合を事例 に、協同組合と村落社会との関係性について考察する。とくに、村落社会において力をもつコーヒーの仲買人と協同組合の運営メンバーとのやりとりに注目し、 協同組合設立から、今日に至るまでの組合メンバーと仲買人との結びつきを明らかにする。この過程から、協同組合による民主的な組織運営では、フェアトレー ド運動で仮想敵とされる仲買人を取引の現場から排除しにくいことを指摘する。

デモクラシーの諸相:スロヴァキア村落におけるアソシエーションとコミュニティに関連して 

神原ゆうこ(東京大学大学院博士課程)

【発表要旨】
 世界中に広がるデモクラシーのローカルなありかたは、近年の文化人類学で注目されつつあるテーマの一つである。ただし、国家の中央集権性への対抗としての デモクラシーが含意する対象の幅は広く、NGOなどのアソシエーションの自由な活動から中央から自治体への権限移譲までその現場も多様である。
 本報告では、1989年に社会主義体制からの転換を経験したスロヴァキアの西部国境地域に注目し、コミュニティにおけるデモクラシーのあり方を検討した い。スロヴァキアにおいて、村落地域の衰退は一つの社会問題であり、体制転換後、中央集権型から自治の方向へ村落の政治のありかたが変容する一方で、肝心 の村落部の政治を支えることができる人材も組織も限られているのが現状である。そこで、報告では、社会主義時代から続く村落のアソシエーションが、民主主 義の時代の村落の政治を支えるアソシエーションへと変容する可能性に注目したい。その際、20年前の「革命」以降、新しい時代のキーワードとして、村落の 人々もまたある程度共有していた「デモクラシー」についての理解の諸相を考察の手掛かりとしたい。

国家と共同体のあいだ―中部ベトナム村落における「公」的扶助のモラルをめぐる住民たちの討議空間 

加藤 敦典(日本学術振興会特別研究員・南山大学)

【発表要旨】
 人類学では、近年、対抗的公共圏の民族誌的研究がさかんである。
 いっぽう、国家の存在感が大きい中部ベトナムの村落のような地域では、国家制度に組み込まれた住民自治組織などの「公式」の公共圏における、国家の価値観 とむら人々の価値観の正面からのぶつかりあいを分析することが、人々の政治的実践を理解するうえで依然として重要である。
 そこに展開するのは、「公共」的な価値をめぐる討議空間としての村落政治である。
 この報告では、ふたつの事例をとりあげる。第一は、貧困削減政策の対象世帯の選定作業、第二は、婦人会による相互扶助的な稲刈り作業の是非をめぐる議論で ある。ふたつの事例に共通するのは、援助すべき対象世帯が国家の定める「文化」的な家庭でない場合への対処という問題である。住民たちのあいだには、「公 民」道徳に基づいて「文化」的でない世帯への公的な支援を却下しようとする人々と、共同体の倫理に基づいて目の前の困窮者を公的扶助の枠組みに包摂しよう とする人々が現れる。両者の主張のあいだに開かれる「公共」的価値のありかたを、東アジア的な「公共」概念や社会主義的集団化の経験を参照枠に検討してみ たい。