「「反聖地のトポロジー――「岬めぐりの遍路道」と事例として」
浅川泰宏(埼玉県立大学講師) 【発表要旨】 人はなぜ聖地を巡るのだろうか。しばしば「磁場」や「磁力」と形容される聖地の魅力は、巡礼者のみならず多くの研究者の関心も引きつけてきた。だが私は四国遍路の調査を通じて、そのような要素がまるで皆無の空間に注目するようになった。単調で、歩いていればむしろ「退屈な道」において、人は何を体験するのであろうか。室戸岬・足摺岬を中心とする高知県太平洋沿岸の、いわば「岬めぐりの遍路道」と呼びうるこの道は、幹線道R55と重なっており、のどかな小道・山道を好む徒歩巡礼者には不人気である。だが、排気ガスにまみれた単調で果てしない道をひたすらに歩くことは、時に巡礼者に「気づき」をもたらす。そこで体得された人生観は、彼らの巡礼体験のなかで決定的なものであり、その後の生の歩みを方向づけているのだという。 具体的には「岬めぐりの遍路道」を含む23番札所から36番札所までの区間、すなわち「修行」の道場と意味づけられる高知県域の東半分を事例に、現代の徒歩巡礼における「苦行」的体験が創り出す場所の聖性について考察したい。 |