能動/受動モデルに基づく男性性の再考:ブラジル国バイーア州ヘコンカヴォ地域における罵りの言葉と振る舞いを事例に
高橋慶介(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
【発表要旨】 ブラジルの男性性は能動/受動モデルに沿って能動性を重視するものとして捉えられてきた。バイーア州ヘコンカヴォ地域の男性間における罵りの相互行為はそれ自体が罵り相手に対する能 動的行為であるだけでなく、罵りで頻繁に使用される「男に犯される男」や「浮気された男」といった言葉も相手の男性に受動性を付与することで相手の男性性を貶める表現である。一方、相 手の挑発的な罵りに取り合わないといった一種の受動性が能動性よりも重視される場面もある。また、罵りに対する過剰な反応は「自己」に対する積極的な働きかけを欠いているという点で、 もはや能動性とみなされない。この能動性と受動性の複雑な結びつきを罵りと嘲笑の事例を通じて示すことで、分析枠組みとしての能動/受動モデルの限界を確認する。最後に、男性間のこの 能動/受動モデルに収まらない男性のあり方を通じて、男女間の相互行為における男性性の捉え方の展望を見てゆく。 |