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第56回

【日時】2008年9月27日

特集:「実践の人類学 パート2:アクションから見える調査の未来」

施設という生活世界で―人間共生システムコースの実践

飯嶋秀治(九州大学大学院人間環境学府 人間共生システムコース 共生社会学 准教授) 

【発表要旨】
Anthropologyという語を、タイラーらの言った意味から大きく変えたのがマリノフスキーだった。彼は、それまでの、手紙や旅といった方法で異文化の表象を収集し、西欧を頂点として序列化するanthropologyを、参与観察を方法とし、自律的な環境適応機能を持つ世界を「現地人の視点」から描くことを定式化した。ところで私は2005年から施設での問題に、同じ人間共生システムコースの臨床心理学者と共に取り組むことになった。その実践を行ううちに、「現地人の視点」から描くだけでは済まない領域があることを学び、そこからマリノフスキー流anthropologyの臨界を考えるようになった。そうした領域では、正統的周辺参加をもくろむ「参与観察」より、自らを作った連累性を意識しながら問題に臨む「関与観察」(cf.中井久夫 2005 『関与と観察』みすず書房)の方がふさわしいのではないか。今回の発表では、文化人類学会での発表を受けて、その先にある「関与観察」とanthropologyの可能性と課題を共有できれば、と思う。 

人類学的営為の未知数性:チリの開発援助現場で暗中模索する

内藤順子(日本女子大学人間社会学部現代社会学科 日本学術振興会特別研究員)

【発表要旨】
開発援助の現場とは、明確な専門性とすぐに役立つ技術を手にして活躍する専門家たちであふれている。そのようななかで、専門はフィールドワーク、人びとと話すこと、暮らすこと、それを書き留めること、考えることといった傍から見れば不明確で即効性のなさそうな専門性に満ちた人類学者は、現場に来てはじめてそこを知り、調査によって可能な援助計画を策定・変更してゆく。その場合、援助対象とされる人びとについてだけでなく、開発者(援助機関や専門家)についても同様に目配りすることとなる。いわば「強者」と「弱者」についてそのはざまで、あるいは見るところから見れば「強者」の立場で「弱者」に寄り添うかのように在りがちな人類学者は、開発援助というもろに実践の現場でどう活き得るか。本発表では、チリにおける地域リハビリテーションの計画立案・実施に腐心した経験をとおして、活動を始めるときには良くも悪くも未知数の、人類学的営為の「実践的可能性」について考えたい。 

カメルーンで森と人の共存の道をさぐる-これまでの研究をもとに私が実践できること

服部志帆(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 研究員)

【発表要旨】
カメルーンの熱帯雨林では、1980年代から加速する伐採事業とこれにともなう野生動物の減少によって、1990年代後半から森林保護プロジェクトが行われるようになった。このようなプロジェクトによって、先住民ピグミーは森林内で伝統的な活動の多くを禁止されるようになり、生活や文化を維持することが困難になっている。私は、2001年からカメルーンの熱帯雨林に居住するピグミー系の狩猟採集民バカを対象に、森林利用や動植物に関する知識、そしてこれらと森林保護の関係について調査を行ってきた。本発表では、これまでの研究内容と実践の試みを時系列にそって紹介し、今後森と人の共存世界が継続していくように、これからやりたいと考えている研究と実践の計画について話したい。これまで歩いてきた道にはいくつもの石が転がっていたのであるが、とくに大きかった石とその転び方、さらにその起き上がり方を紹介し、そこから研究と実践について思いを巡らせてみたい。