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第51回

2007年10月21日(日)

特集:「フィールド」の現在的配置-人類学的空間と社会形態学の再検討」 

人類学的概念と空間的属性:線と面を巡って

佐々木剛二(東京大学大学院 総合文化研究科 文化人類学研究室 博士課程)

実践のトポロジー:タイ地場機械工業における人とモノの配置から能力、差異、集合性を再考する

森田敦郎(東京大学大学院 総合文化研究科 文化人類学研究室 助教)


[ 発表要旨 ]
「社会形態学」とは、デュルケーム社会学において、地理、人口、交通、建築などの空間的・物質的な要因と社会の関係を研究するとされた下位分野である。その役割は、「空間における人と事物の結合」有様を分析することで、物質的な「社会のカタチ」を明らかにすることだった。デュルケーム社会学に依拠した初期の社会人類学では社会形態学への関心は比較的高く、エヴァンス=プリチャードの『ヌアー族』がM.モースのエスキモー社会の形態学的研究から大きな影響を与えたことが知られている。だが、地理的境界と集団の一致を前提とする民族誌的な「社会」概念が確立される中で、社会形態学への関心は低下していった。半世紀以上の時を経た今日、「社会」と呼ばれるものは再び不鮮明になりつつある。グローバル化の現代的な発展は、人々の集合生活の形式を大きく変えつつあるだけでなく、地理的境界と集団の一貫性という人類学的認識の前提を揺るがしてしまったといえる。この状況は、われわれ若い人類学者にとっては理論上の問題というよりも実践的な問題でもある。われわれは「何を」、「どこで」研究しているのか。研究対象をつなぐ鎖はどこまで広がっているのか。われわれはどのような概念と調査手法によってその広がりを追うことが出来るのか。人類学が育んできた多様性への感受性は、こうした空間的条件への敏感さによって補われなければならない。今回の特集では、こうした問題意識を背景に社会と空間および物質性についての問題提起を試みる。

個別発表の内容は以下のとおりである。まず、方法論的問題を担当する佐々木は、1990年代以降、人類学や隣接の諸領域にいて行われてきた「刷新」の動きの中で提出されたいくつかの中心的な概念を取り上げ、その整理を行う。ここで佐々木が注目するのは、人類学者が用いる概念自体がもつ空間的な特性である。ネットワークや越境性を賞揚する研究が概念的な吟味に必ずしも結びついてこなかなかったのに対し、佐々木は人類学者の側の概念装置が持つ空 間的な性質の変化を学説史的に解き明かそうとする。

一方、経験的な問題提起を担当する森田は、「空間における人と事物の結合」に焦点を当てながら、差異、集合性、社会範疇といった人類学的な概念を再考することを試みる。ここで取り上げるのは、タイの中小工場で、機械の製造や修理といった実践を成りたたせる人とモノの配置である。この配置は、移動と滞留によって構成される工場の空間を経て、部品や原料の国際的な流通ネットワークに結び付けられている。さらに森田は、機械工たちのアイデンティティや集合性は、この複雑な空間構成と密接に関係する多様な差異の配置の中から生み出されていると論じる。今回の特集では、社会の概念をめぐる問題に空間という側面からアプローチすることを試みる。