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第43回

2006年11月4日 (土)

パプアニューギニア・トーライ社会における自生通貨と法定通貨の共存の様態


深田淳太郎 (一橋大学大学院社会学研究科博士課程)

発表要旨】.
パプアニューギニア、東ニューブリテン州のトーライ族の人々は、貝殻の貨幣タブを婚資や儀礼の手続きといった「伝統的」な用途に使用すると同時に、法定通貨であるキナと並行して様々なモノの売買にも使用してきた。最近では州政府がキナを補完する第二の通貨としてタブを活用する計画を推進しており、すでに州内の多くの地域では税金や授業料をタブで支払うことが可能になっている。本発表では、この貝殻の貨幣タブと法定通貨キナがトーライ人の日常生活の中でどのように相互に関係し共存しているのかについて、その二つの貨幣でのモノの売買の実態、特にそこでのさまざまなモノの価格の比較・検討を通して考察する。

『殖える財』と『死なない財』:モンゴル国遊牧民の家畜と銀


風戸真理 (京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科研修員)

発表要旨】.
 本発表は、今日のモンゴル遊牧民が、財産として家畜のほかに銀製品を重用していることに着目し、銀と銀製品利用の歴史と現状を示し、彼らにとって銀と銀製品がどのような意味をもつのかを議論する。加えて、銀製品の再分配を仲介する職能者である鍛冶師の活動を紹介し、現代の鍛冶師がモンゴルの銀利用に果たす役割について考える。
 モンゴル国の牧畜地域は、社会主義から市場経済化への移行がはじまって15 年になる。遊牧民は、家畜を飼育して殖やすことにより、衣食住の多くの部分を畜産物によって直接に支え、畜産物を商品交換することにより生活必需品を入手してきた。ところが、1999-2001年にかけて冬春期の天候不順による家 畜の大量死、「ゾド」が2年連続でおきた。ゾドによって多くの家畜を失った牧民は、家畜と銀製品や自動車などほかのモノと比較し、後者を「死なない財」と評価した。
 モンゴルの銀製品には、馬具装飾、装身具、茶碗があり、これらは父母両系の先祖伝来の財として継承されてきた。小さな装身具は子どもの数に応じて分割・合体して再形成して相続された。人びとは、銀製品をその歴史性ゆえに大切にしてきた。また貴金属による装身は、健康や運勢と関係をもつとも考えられている。つまり銀製品はモンゴルの文化に埋め込まれた多義的なモノなのである。一方で、銀と銀製品は財として周辺的な位置を占める。すなわち、銀は家畜と異なりそれ自身で殖えることはなく、原則として投機的に利用されるものでもない。また牧畜地域では外部からの原料・製品供給は多くなく、銀製品の生産は周辺的な産業である。資産価値の観点からも、金と比べて銀は、国際・国内価格ともに低い。
 だが、牧民のライフサイクルのなかでは、個人が所有している銀製品を相続のために再形成・分割・合体することは不可欠であり、金銀鍛冶師はこの仕事を引き受けている。鍛冶師は、基本的に1人で遊牧地域を巡回して労働をおこない、職人としての集団を形成しない。ただし、技能の伝達および鋳型の入手を目的とした非対称な2者間関係を基盤としたゆるやかなネットワークがみられた。