研究会の記録‎ > ‎2005年度‎ > ‎

第33回

【日時】2005年5月15日

修士論文中間構想発表

東アジアにおける人神・無縁仏・先祖

鈴木洋平 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)

【発表要旨】
 漢族の民俗宗教に関する「入門的理解」として、「神明(god)」「鬼魂(ghost)」「祖先(ancestor)」という三区分(「三位モデル」)が、1970年代後半から台湾をフィールドとする研究者により示されてきた。台湾は宗族組織が顕著に見られない地域であり、「三位モデル」も非宗族的な社会関係を説明するモデルの一つとされる。

 「三位モデル」は、その静態的な側面が批判の対象とされ、死者の位置付けについて複数の要素間を移動する「動態性」を持つ事例の検討が行われている。しかし、こうした「動態性」はモデル内部での移動にとどまり、モデルが示された時点以前・以後における要素間の時代的変化を隠蔽する危険性を持つ。

 本研究では、日本民俗学による日本での「三位モデル」各要素に相当する概念に関する研究蓄積との比較を通して、時代的変化を踏まえたモデル設定と東アジア的な視野での比較の可能性について考察したい。 

韓国社会の『教育熱』に関する人類学的考察:代案学校の事例を中心に

小玉博亮 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)

【発表要旨】
 韓国社会は日本社会と同様に学歴社会であり、子女の教育に対する熱意が非常に高い国である。大学入試の季節に、子供たちの合格を願い受験校の校門にあめをつける母親の姿や試験時間に遅刻しそうな学生を運ぶ警察の姿などがしばしば象徴的に語られる。韓国には、科挙や両班の伝統を文化的背景として学問を重要視する傾向があり、「より高い学歴を得ることが、社会で成功を収めるための一番の近道である」という学問による立身出世のイメージが普及している。教育は就職・家族(親族)の繁栄・結婚などと密接に結びつき、多様な社会的・経済的機能を果たしている。そのため人々の教育への高い関心が過剰な形となって、受験競争や不登校などの社会問題を生み出してもいる。そこで本研究は、教育人類学の理論を援用し、主に教育社会学の領域で扱われてきた韓国の教育現象に関する人類学的研究の展望を開くことを目的とするものである。

音の共同体に関する文化人類学的研究

辻本香子 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)

【発表要旨】
 人間が何を音楽と捉えるかという問題において、第一に問題となるのは「音楽」という 語の定義である。本研究では、その定義の枠組みを外すためにサウンドスケープ論を用い る。標題とした「音の共同体」とは、先行研究から生まれた、ある音に対し、その音を共 有する人たちを一つの共同体とみる考え方である。現代の日本で「音風景」として好まれ、 聴かれている音は、人々の意識下で「音楽」とどのように峻別されているのだろうか。本 研究では、音をめぐる環境に焦点を当てることで、社会における人間の聴覚にまつわる文 化を考えていく。そのため、’96年の環境庁「残したい日本の音風景100選」事業の再検討 を中心事例とする。音風景を聴くという行為を通し、「音楽とは西洋音楽、もしくはそれ に近いものである」という無意識を浮き彫りにし、それに相対する概念として「音風景」 が用いられていると仮定する。それらを基に、「音に関しての非西洋的感覚」という意識 のアイデンティティを再構成したいと考えている。

漁業管理をめぐる制度・実践・科学技術

寺戸宏嗣 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)

【発表要旨】
 80年代半ば以降、人類学的な資源管理研究は地域共同体の慣習的制度が生態系的/制 度論的に見て資源管理に効果的であることを論じてきた。そこには政府/地域共同体、 科学的知識/土着の知識、という二つの分別が見られる。だが、政府と地域共同体の分 権・協力関係に基づく共同管理、及び静態的モデルを前提としない順応的管理が通念化 しつつある現状を鑑みると、その両分別の有効性は怪しい。むしろ、社会科学者/自然 科学者/政府関係者/漁業関係者の現状認識は互いに似通ったものとなってきている。 特に漁業管理においては「自然の不確実性」が共通の前提となってきているが、これは ようやく皆が「現実」を理解するようになったということなのだろうか。むしろ諸行為 者間の交渉/調整過程の産物なのではないだろうか。本研究では実践理論・科学人類学 の知見を糸口に、これを「自然の不確実性」が問題化されつつもブラックボックス化さ れていく状況と捉え考察したい。

制度化する『民俗芸能』――戦後文化行政の展開と『民俗芸能研究』

岩楯磨州 (東京大学大学院文化人類学研究室修士課程)

【発表要旨】
 本論文は、祭礼行事などで行われる神楽や念仏踊りなどのいわゆる「民俗芸能」を対 象に、戦後の文化行政の展開などをも視野に入れた「制度的アプローチ」を試みること によって、これまでの「民俗芸能研究」の成果を批判的に再検討し、新たな視座を構築 することを目的としている。そのために「なぜ従来の研究は、より洗練された芸を目指 そうとする当事者の思いや、その実践について正当に問題化することができなかったの か」という問いを出発点としながら、前半部では「民俗芸能研究」という不確かな学問 領域の成立とその後の傾向を通時的に概観し、さらに文化財保護政策の展開とそこに携 わった研究者の動向について考察する。後半部では具体的な事例を挙げて、現代におい て制度化した「民俗芸能」と社会の関わりの諸相について、「文化生産論」や「文化産 業システム」のフレームを用いて論じたい。