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第2回

医療人類学特集

2002年1月15日

終末期ケアの人類学・序論:米国ホスピスのフィールドワークから

服部洋一 (東京大学大学院文化人類学研究室博士課程)

死を扱う人類学は、儀礼や慣習に注目し、社会的秩序の維持・回復過程を論じてきた。現代米国を対象に葬儀分析の手法を転用したHuntingtonとMetcalfの蹉跌は、死を語る言説が多元化し、葬儀が限局化・産業化された社会に相対し、人類学もまた、死を記述する新しい戦略を摸索せねばならないことを示した。発表者は、そのような社会的状況に埋め込まれながら、終末期の患者・家族の全人的ケアを目指す、ホスピスの実践に、一つの可能性を見る。患者・家族にとり、初めての一度きりの体験である死別は、ホスピスの専門家の日常である。米国ホスピスの特徴は、両者の知識・技術差を縮める教育的アプローチにある。ホスピスが提供するのは、具体的な目標、状況の満足化、実践的知識・技術であり、死を語るイデオロギーではない。この事実は、死の統制の新たな記述様式を提供すると共に、死を語る知識の存在を死の統制と同一視してきた従来の分析を強く反駁する

福祉国家論の人類学的再検討─フィンランドにおける政治体制と地域社会─

高橋絵里香 (東京大学大学院文化人類学研究室博士課程)  

現代の福祉国家研究では、政府による社会政策と類似した機能を有する諸制度との関連において、福祉国家を理解することが重要視されている。それは従来の国民国家型福祉に対し、エスニシティやジェンダー、家族論の領域から非難が加えられたことに関連する。しかし、現代において声高に唱えられる地域福祉の実現は、それぞれの地域の多様性を福祉国家類型の内部に押し込めることで、その主張を曖昧にしている。今回の発表では、フィンランドにおける所謂「北欧型」と呼ばれる社会民主主義的福祉体制の展開と、国民国家の形成といった歴史・社会状況や、マイノリティであるスウェーデン語系フィンランド人への対応との関連を検討することで、人類学が福祉研究に対して提示し得る姿勢を明らかにして行きたい。